工事進行基準とプロジェクト管理
+企業会計基準委員会による「工事契約に関する会計基準」(2010/12/29更新)
これまで、工事契約の請負契約に関する収益の計上について、工事進行基準又は工事完成基準のいずれかを企業判断で選択適用することが認められてきました。しかし、企業会計基準委員会が平成19年12月27日に公表した「工事契約に関する会計基準」によると、2009年4月以降の事業年度から下記の適用基準に準じることになりました。
計上基準 |
概要 |
適用基準 |
工事進行基準 |
進行に応じて収益・費用・進捗を計上する方式 |
成果の確実性が認められる場合 |
工事完成基準 |
完成時に総収益・総費用を一括計上する方式 |
成果の確実性が認められない場合 |
これにより、成果の確実性が認められない場合以外は、原則、工事進行基準を適用することとなりました。
工事契約とは
請負契約の内、仕様や作業を顧客の指図に基づいて行う契約と定義されています。
※請負契約と準委任契約
契約書の書面上、準委任契約であっても実態が役務提供型ではなく成果物納品型であれば工事契約とし、
本会計基準の適用範囲としています。
民法上、契約形態は下記のとおり定義されています。
・請負契約:成果物提供
・準委任契約:役務提供
しかし、実際のビジネスにおいては、定義どおりの契約形態になっていない場合があるので、
形式上の契約形態ではなく実質的な契約形態に応じて適用範囲を定義しています。
成果の確実性とは
成果の算出根拠である下記の各要素について信頼性を持って見積もることを意味します。
◆総収益
◆総原価
◆決算日の進捗
+世界の会計基準(2010/12/29更新)
◆国際会計基準
収益と原価を相対させるため、例外なく工事進行基準を適用します。
ただし、収益を正しく見積れない場合は、原価回収法(工事原価のうち回収可能性が高い部分についてのみ工事収益を計上)で計上します。
【デメリット】
全て工事進行基準とし成果に確実性がない場合にも収益を計上するため、
過剰に利益が発生する可能性があります。
◆米国会計基準
成果(進捗)等に確実性のある場合は工事進行基準を適用します。それ以外は、工事完成基準を適用します。
【デメリット】
工事完成基準では収益の確実性は保証されていますが、決算時点で収益と原価が隠蔽され、
発生主義としての現実を正確に表現できません。
◆日本における「工事契約に関する会計基準」
国際会計基準ではなく米国会計基準に則した内容となっており、工事完成基準も認めることにしています。
つまり、発生主義における正確な表現よりも収益の確実性を優先することになりました。
+総収益・総原価・進捗の算出(2010/12/29更新)
「工事契約に関する会計基準」で定められた工事進行基準の手法と
D-Method(プロジェクト管理手法)による具体的な手法(青い部分)は以下のとおりです。
「A-Sign」の操作概要で具体的な工事進行基準のための操作が説明されています。
◆総収益の算出
工事契約の収益は実質的な取引に基づくべきで、必ずしも1つの契約書と対応するとは限らず、複数または分割された受注契約と対応する場合があります。
◆D-Method◆
実質的な取引とは、確定的な請求権を獲得できる単位つまり顧客と成果・目的を認識できる単位であり、一般に1つのプロジェクト・フェーズを意味します。受注契約とプロジェクトを多対多で関連づけることにより、実質的な取引(プロジェクト・フェーズ)に関連する受注契約を把握します。
◆総原価の算出
過去の見積りと実績を対比し、適切に見積もりの見直しを行う必要があります。そのためには、予算や原価に対する管理体制の整備が必要不可欠です。
特に、ソフトウェア受注制作においては事前の仕様定義が困難であるため、総原価を見積もるためには高度な管理が必要です。
◆D-Method◆
下記の手法により機能量やリソース属性(スキル・アベイラビリティ・契約金額・実際原価)を踏襲した総原価を算出します。
(1)要件定義を行う(非定型作業)
要件定義は非定型的業務であり、経験と高度なスキルをもつ人材による対応が必要不可欠です。
(2)要件定義に基づいた機能量を算出する(定型作業)
IFPUGのFP法(ファンクションポイント法)を利用しやすく改良した機能量算出手法を利用します。
(3)フェーズ・タスクの機能量に基づいて、リソースアサイメントを行う(非定型作業)
ガントチャート上でリソースをフェーズ・タスクにアサインします。
アサインの際は、リソース属性(スキル・アベイラビリティ)を十分に考慮します。
(4)総原価(BAC)の算出(定型作業)
リソーススケジュールと給与額・発注金額とを連携し、リソースの総原価(BAC)を算出します。
(5)実績を加味した総原価(EAC)の算出(定型作業)
リソーススケジュールと発生済みの実際支払金額を連携し、リソースの実績を加味した総原価(EAC)を算出します。
◆決算日の進捗の算出
原価比例法や作業時間や進捗機能量などを利用して成果進捗とします。
工事進行基準における収益は確定した(法的な)債権ではなく、「進捗」をもとに算出しています。
よって、工事進行基準のためには、「進捗の信頼性」が必須となります。
「工事契約に関する会計基準」では、「進捗の信頼性」とは、
「対価を受け取る確実性が保証されていること」と抽象的に定義し、
「進捗の信頼性」を担保するための具体的な方法は定めておりません。
具体的な方法は個別の監査上の課題であり、会計基準として具体的に定義はできないからです。
各企業は、内部統制の観点からも、「進捗の信頼性」を担保するために、
検収書などの顧客との何らかの取り交わしを定める必要性あります。
◆D-Method◆
フェーズまたはタスクごとに下記の進捗入力方式を設定します。
・原価比例法、計画比例法、進捗率入力、進捗時間入力
+原価比例法・計画比例法・進捗入力(2010/7/5更新)
プロジェクトにおいては、あらかじめ進捗の入力ルール(根拠と精度)を定めます。
進捗の根拠 : 原価(原価比例法)、計画(計画比例法)、作業時間、機能量 など
進捗の精度 : 0-100方式(完了時に100%)、0-50-100方式(着手:50%、完了:100%) など
■原価比例法
原価比例法は、進捗=原価とする考え方です。
実際、進捗度=時点原価(AC)÷原価見積総額(BACまたはEAC)として進捗を算出します。
総計画(BAC)=最終総原価(AC合計)が保証されているような外注のタスクなどは、この方式で進捗を算出します。
(メリット)
進捗を管理する必要がなく、担当者の負荷を減らせます。
(デメリット)
一般にコストと成果は単純比例せず、成果とは無関係なコストも十分ありえます。
原価比例法では、そのようなコストロスを別途調整する必要があります。
実際、「工事契約に関する会計基準」では、原価比例法において、時点原価が進捗を適切に反映しない場合は、適切に調整するべきとしています。
■計画比例法
計画比例法(D-Method独自の呼称です。) は、進捗=計画とする考え方です。
実際、進捗度=時点計画(PV)÷原価見積総額(BACまたはEAC)として進捗を算出します。
進捗管理の必要がない「打合せ」などのタスクは、この方式で進捗を算出します。
■進捗入力
進捗率や進捗時間で入力します。
進捗の信憑性については、下記で担保します。
・0-100方式などの進捗精度を統一。
・WBSの細分化:タスク期間を2週間以内とするなど。
・FP法などの機能量算出方法を定義し、進捗=達成機能量とする。
+工事進行基準と工事完成基準の仕訳(2010/12/29更新)
進行中プロジェクトの決算日での仕訳計上は下記のとおりです。
| 収益
| 収益を計上しません。
|
累計洗替方式で算出した収益を計上します。
当期収益=受注金額×進捗−前期計上済み収益累計
【原価比例法での進捗の算出】
進捗=当期累計原価÷総原価
【EVMでの進捗の算出】
進捗=WBSの各タスクの進捗の合計
【リスク】
不確実な収益計上とそれに伴う納税という
リスクがあります。
|
| 原価
|
原価を資産計上します。
【リスク】
不確実な収益に対する原価を資産計上するので
実際の発生費用が財務上表現されません。
|
原価を費用計上します。
|
仕訳計上のポイント
・何れの場合も、売上と原価が相対するように計上します。
・何れの場合も、期間費用(一般管理費など)を原価とは別に識別し、費用計上します。
・何れの場合も、収益の不確実性のリスクがあります。
+工事進行基準と担当部門(2010/7/24更新)
+工事進行基準の意義(2010/12/29更新)
企業活動の可視化
企業活動の可視化について、下記のとおり対応が迫られています。
2010年4月度から:内部統制法への対応
2009年4月度から:工事進行基準への対応
ここでの企業活動の可視化とは下記を意味します。
・オフバランス取引の可能なかぎりの削減
・財務諸表から様々な企業活動へのトレーサビリティ
つまり、企業活動を可能な限り財務諸表に表現もしくは関連づけるということです。
請負契約の可視化
企業会計基準委員会が平成19年12月27日に公表した「工事契約に関する会計基準」も、
内部統制法と同様、「企業活動の可視化」への要請です。
長期の請負契約では、進行過程において未検収の収益(債権)・原価(債務)が発生していきます。
これら未検収の収益・原価は法的な債権・債務ではないため財務諸表上には表現されません。
これらオフバランス取引を財務諸表上に表現するためには下記の2つの方法が考えられます。
■工事完成基準の場合:契約を細分化して収益・原価を計上する。
プロジェクトをフェーズ毎や機能毎に細分化し、細分化された単位で契約・検収を行います。
これにより、決算日の時点で、法的に保証された収益(債権)・原価(債務)を計上できます。
■工事進行基準の場合:未検収の収益・原価を計上する。
決算日に検収未完了であっても、進捗実態に応じた収益(債権)・原価(債務)を計上します。
IT業界の可視化
IT業界では会計的にグレー(未確定)な企業活動が多く、多くのSI企業は可視化の課題を抱えています。
例えば、IT業界では契約のない状態でプロジェクトが進行することもよくあります。
IT業界にグレー(未確定)な企業活動が多い原因としては下記が考えられます。
■仕様定義が困難
■開発工数と研究投資の線引きが困難
■工数と成果が単純比例しない
工事進行基準の意義と課題
企業活動において「グレーはグレーとして明確に表現」するところに工事進行基準の意義があります。
グレー(未確定)な企業活動の可視化については、下記の見解があります。
◆グレー(未確定)なので可視化しない。
◆グレー(未確定)であるが確定データとして可視化する。
これら見解は、可視化とは「白黒はっきりさせる」ことであるという解釈を前提にしています。
可視化とは、必ずしも「白黒はっきりさせる」ということではありません。
工事進行基準においては、確定していない債権・債務であっても、それらグレーの企業活動を財務諸表上に表現し、
「グレーはグレーとして明確に表現」します。
実際、財務諸表上に下記を表記し、収益や債権の不確実性を表現します。
・進捗の見積方法:対価を受け取る確実性が保証されている必要があります。
・貸倒引当金:未収入額は法的な債権ではありません。不確実性は貸倒引当金で表現します。
・工事損失引当金:最終的な総収益と総原価を比較し算出します。
このように財務諸表全体として収益・原価の不確実性を表現しますが、
「工事契約に関する会計基準」では、1つ1つの科目・表記については確実または合理的であるべきとしています。
しかし、進捗の確実性ついては、今後、大きな課題となってくることが予想されます。
特にソフトウェア開発などにおいて、「進捗の信頼性」を担保するための具体的な方法(検収書など)について何等かの取り決めが
経営管理上または監査上、必要になります。
グレーの可視化
進捗の不確実性は、工事進行基準だけではなく工事完成基準においてもリスクとして存在します。
実際、進捗の不確実性は、工事進行基準においては収益に対するリスク、
工事完成基準においては原価の資産化に対するリスクとなります。
※工事進行基準においては納税まで行うのでリスクはより高まります。
何れにしても、これらのリスクは最悪の場合、「皮算用的」な収益が消滅し膨大なコストだけが残るという事態につながります。
そして、このような未成熟ともいえる事態は、IT業界では頻繁に起こっているのです。
工事進行基準では制度上「グレーの可視化」を要請することにより、このような事態を防ぐことを目論んでいます。
実際、工事進行基準を契機とし、収益・原価・進捗の最新状態を可視化します。
そして、顧客とは仮契約書・着手依頼書・検収書などによる取り交わしでそれらを担保し、
社内的には、適切にそれらを承認します。これらの仕組みにより、統制されたプロジェクト進行を実現できるのです。
+工事進行基準への誤解(2010/12/29更新)
工事進行基準について、下記が懸念されています。
■ソフトウェア受託開発では工事進行基準が義務づけられる?
正確には、「収益・原価・進捗が正確に把握できる場合は、工事進行基準を適用すべき」ということです。
成果物が可視化困難な委託業務のような場合は、工事進行基準ではなくても構いません。
しかし、可視化が困難でない通常の成果物型プロジェクトの場合は工事進行基準を採用し
下記の可視化を行う必要があります。
・内部に対する可視化:各部門への状況の可視化
・外部に対する可視化:顧客など外部への状況の可視化
工事進行基準を採用せず可視化を行わない場合は、
現実問題として、顧客・監査法人などに明確な理由を示すことが求めらます。
■工事進行基準では計画主導のため硬直化する?
工事進行基準は、最近の現場主導型のボトムアップ型プロジェクトではなく、
従来の計画主導型のトップダウン型プロジェクトを連想させられ、流動的なビジネスの現実にそぐわないと懸念されています。
この懸念は、可視化(定量化)と流動性への対応が二律背反であるという前提から来るものです。
重要なことは、工事進行基準では、可視化は要求していますが流動性を認めないとは述べていないということです。
それどころか、「工事契約に関する会計基準」では、計画と実績を対比し、適時、見積りを見直す必要があるとし、
流動性に随時、適切に対応すべきとしています。
実際、EVM(アーンドバリューマネジメント)等で予想総原価(EAC)を随時見直します。
そもそも、統制の効いたマネジメントと流動的なビジネスへの対応は両立すべきものです。
可視化(定量化)と流動性への対応を両立する必要がある工事進行基準は、ビジネスの現実と矛盾するものではありません。
+工事進行基準とプロジェクト管理(2010/3/11更新)
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